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山形県で総合診療医を目指しています。日々の振り返りをご笑覧ください。

抄読会:アメリカの都市部/地方で心不全死亡率が違うのはなぜ?

久々の抄読会記事です。
今回読んだのはこちら。

The role of comorbidities, medications, and social determinants of health in understanding urban-rural outcome differences among patients with heart failure

Open accessありがたい!
自分流にざっくりと書いておきます(詳細は読んでみてください)。
 
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アメリカの地方には人口の1/5が住んでおり、全死因による超過死亡に20%の差があるそうです(明らかな地方在住のアメリカ人の方がたくさん死んでいるそうな)。
その中でも心血管死亡の格差が大きいため、駆出率低下性心不全(HFrEF)の死亡率に注目してその背景を探ってみたよ!という論文です。

最近流行りのビックデータを使った研究です。メディケア(アメリカ65歳以上の高齢者+65歳未満の障害者)の2008-2017年のレセプトデータを用いたそうです。

筆者らは以下のような仮説を立てました。
・地方住民は併存疾患が多いから心不全死亡率が高いのでは?
・地方住民にガイドライン準拠の医療が十分に適応されていないからでは?
・地方住民の方がSDH(健康の社会的要因)が大変なのでは?
なるほど、そう言われればそんな気もする。さて、これをどうやってビックデータから紐解くことにしたか気になりますね。
 
併存疾患はcharacterの評価の時点で判明します。
ガイドライン準拠かどうかについては、患者が退院後にβ遮断薬・MRA・RAS系阻害薬が処方されているかどうかで判定されました(SGLT2iについては研究開始後にアメリカで承認されたので除外したそうです)。
SDHについては、①メディケア+メディケイドの両方の受給資格があるかどうか?(二重登録している人はそれだけ健康状態が悪く大変な人ということらしい)②貧困・住宅・雇用・教育を含む社会経済状況から算出されるarea deprivation index (ADI)で評価ということにしたそうです。
(そんな評価インデックスがあるのか……アメリカすごい……)
 
それと大事なのは「地方」の定義ですよね。都市部と田舎は明確にカットラインを決めるのが難しいのは世界共通のようです。この論文では、入院時の住所とrural-urban commuting areas (RUCA) codesで決めたと書いてありました。
RUCA codes=人口密度・都市の状況を踏まえて、アメリカ全土を首都圏/大都市/小都市/僻地に分類する、郵便番号に基づいたコード表
(これもマジかよって感想です。通勤距離なども評価に入れているらしく、うまいコードだなぁと感心しました)

以上を踏まえてどんな結果だったか?
(解析とか細かいところは省きます)
 
都市部の患者と比較して、地方のHFrEF患者は白人である可能性が高く、中西部と南部に住んでおり、社会経済的に不利な立場にあることが多かった(地方住民の方が白人が多いんですねー)
地方に住んでいると、心不全増悪による退院後 30 日以内に ER を再受診する可能性が高いにもかかわらず、 30 日後と 1 年後の再入院のリスクが低い。かつ、心不全による入院後 30 日後と 1 年後の死亡リスクが大幅に増加していました。
 
最初の仮説
・地方は併存疾患が多いから、心不全死亡率が高い
・地方はガイドライン順守率が低いから、心不全死亡率が高い
・地方はSDHによる健康負担が大きいから、心不全死亡率が高い
 ↓
resultからわかったこと
・都市部と地方を比較して、ベースラインの併存疾患の差があまりなかった
ガイドラインの順守率はむしろ地方の方が高かった
・SDHの影響は地方の方が大きいようだ
(仮説の上2つは否定された!)
 
しかし、解析結果からはやはり30日死亡率オッズ比が1.140と高い。この理由について、筆者らは「心不全患者の入院・ERでのケアが都市部・地方で差が大きいから?」と考えているようでした。
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「最初に考えてた仮説」が否定されて、筆者チームらは肩落ちしたんじゃないかと想像します。それでもここまでの論文に仕上げたことには敬意しかありません。
地域差は明確にあるものの、その背景を探るのは難しいの一点に尽きます。
日本ではどうなんでしょうか。味わい深い論文でした。