YAMAGATAxGP

山形県で総合診療医を目指しています。日々の振り返りをご笑覧ください。

「地域医療」という言葉のグラデーション

出身大学の影響もあり、地域医療について考える機会が多いです。医師になって数年経ちますが、すでに複数の医療機関で勤務させてもらっており、どこにおいても自分なりに「地域医療」に携わってきました。
しかし、一言で地域医療と言っても色んなグラデーションがあります。
僕が実際に感じた経験から、「地域医療」という言葉を色分けしてみようと思います。

 

・担う医療圏で異なる「地域医療」
ぶっちゃけその地域の人のことを考えた医療をしていれば地域医療だと思っています。
ここでいう「地域の人」という枠組みは、医療圏と置き換えてもいいでしょう。
同じ地域医療を語っているはずなのに中身が異なるのは、指している地域の幅が異なるからかなと思っています。

 

大雑把に分けると下記のとおり。
一次医療圏:市町村単位
 診療所や開業医、小規模病院が担当する範囲
二次医療圏:複数の市町村で構成される、県内の地方単位
 救急指定がある複数診療科の病院が担当する範囲
三次医療圏:都道府県単位
 いわゆる高度医療を提供する病院(急性期)

 

なので、大学病院に勤めていても「私は地域医療に貢献している!」というのは決して間違ってはいないと思います。
(同時に、全ての地域医療をわかっていると言われるとハテナが浮かびますが)

 

それぞれ考えていきます。

①三次医療圏
ここでいう地域医療は「県外まで出ずとも専門治療・急性期医療を完結させる」ことです。
個人的には一通りのがん治療や大人の心血管系、外傷の急性期、小児の専門治療あたりをイメージしてます。
ここを担う専門家達が地域=都道府県のために頑張る目線を持っていれば、立派な地域医療だと考えます。
ここら辺は大きな政治(医師の派遣や専門外来の行末・全体の病床数のコントロール)が関わってくるため、地域の人口・高齢化率などビックデータからドライに考えていく必要があるでしょう。
その分、ウェットな部分というか、地域ごとの解釈や現場レベルでの困りごとに直結した医療を提供しにくいことを自覚しないといけません。

 

②二次医療圏
専門領域が少し限られる(心臓外科の手術はできない・緊急の手術は大変・お産はとれるけどNICUはないetc)ところになると、地域医療の意味は「その地域の急性期医療を完結させる」ことにあります。
そのため、高齢者医療の急性期部分を担う必要があり、臓器別専門医が敬遠する部分が増えてくる医療圏と考えます。
二次医療圏を守るという意味が地域医療を意味するなら、高齢者の急性期医療は避けて通れない領域です。高齢者はmultimorbilityを過分に含んでいるため、院内で振り分け困難となりうる可能性が高いです。一方、臓器別専門医は疾患多併存に対するトレーニングは受けていません。
専門医としての仕事も行いながら、自分の専門外の仕事も過分に求められる。高齢化社会の波が直撃しうるのもここです。
二次病院が疲弊する原因の1つでもあると思います。

 

③一次医療圏
地域のかかりつけをイメージしてください。
開業医や週に何回かの専門外来を持つ小病院が担っている部分です。
地域医療の意味としては「困った時に相談できる・必要な高次医療圏への適切な振り分け」です。
困った時に相談できる、という言葉はよく考えると相当深い意味を持っています。
患者さんが健康について困った時、臓器別の問題にすでに決まっているわけではありません。複数の問題が組み合わさっていたり、考えの問題や社会的な問題も過分に含まれています。
そういった問題をいったん受け止める駆け込み寺として機能しつつ、一次医療圏の方が対応しやすい問題と高次医療圏で解決すべき問題に切り分け、紹介すべき人を紹介する。
臓器別専門医からすれば「医者の仕事なのか?」と思われるかもしれませんが、より小さな地域に密着した業務が求められるプロフェッショナルの一つの形だと考えています。

 

これらの3分割には割り切れない場所も多数あります。
(特に1次医療圏と2次医療圏の間には、それぞれの自治体の関係や今までの歴史からどちらにも割り切れない事業所が多数含まれていると思います)
今回は分類しようぜ!が本来の目的ではなく、「地域医療」という4文字には様々なグラデーションが含まれていることを知って欲しいというのが目的なので、わかりやすい3分割を使ったつもりです。

 

地域医療と言われると一次医療圏〜二次医療圏を想定しやすいと思いますが、決して三次医療圏も地域のことを考えていないわけではないと思います。
これからやってくる高齢化の波が直撃するのは、間違いなく急性期病院です。
地域の高齢化はどうなるのか・どこまでを急性期と捉えて治療するのか・少なくなっていく患者数で運営できるのか。

 

地域医療とは、事業所の属する医療圏の変化を見据えて適切な医療提供をしようぜ!って意味だと考えています。
解決策は医師補充ではなく、人口の変化・有病率への変化を受け止める医療体制の構築です。
それはとても大変なことだけど、自分の子供達や後塵が幸せに暮らせる社会への貢献でもあります。
そんな目線を持って、地域に飛び込んでいけると面白いんじゃないでしょうか。