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山形県で総合診療医を目指しています。日々の振り返りをご笑覧ください。

総合診療医とは何か(自分なりの答え)

FBでこんな質問が聞かれました。
「総合診療医、総合内科、家庭医、在宅医の違いってなんなんでしょうか?」
ちょっと一言でお答えできなかったので、ゆっくり書き出してみます。

 

総合診療を語る上で欠かせないのがエンゲルの階層モデルです。

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https://www.yodosha.co.jp/gnote/gtips/vol6.html


人間を分類するにあたり、ミクロの目線とマクロの目線があります。
ミクロの目線とは、人間>臓器>組織>分子>原子という方向です。いわゆる医学のscienceはこの方向に進歩してきました。
一方、忘れてはいけないのがマクロの目線です。
人間をマクロで見ていくと、人間<家族<地域<国<地球と広がっていきます。

 

さて、なぜこの目線が総合診療医を語るのに必要なのか。
臓器別専門医の皆様からよく聞かれる「総合診療って何が専門なの?」という言葉へ回答するためです。
臓器別専門医の「専門」とはミクロ方向に広がる人間のどこを詳しく勉強しているのか、という意味と解釈します。そのため「私は循環器内科で不整脈が専門です」「僕は小児科でも神経専門になりたいです」という回答が発生します。
一方、総合診療医の専門はミクロ方向ではなく、マクロ方向と言い切ります。
もちろん総合診療医も医師ですから臓器や組織への勉強は欠かせません。しかし、総合診療を語る上で欠かせないのが、その人は家族の中でどんな存在なのか・地域社会からの影響はあるのか、といったマクロ方向へ思考する能力です。この目線を大事にしているのかどうかが総合診療医かどうかの線引きと考えます。

 

「総合診療医」という大枠に入るかどうかは、「人間のマクロ方向への思考回路を持っているか・それを自分の専門としているか」です。

この大枠の中にも様々なグラデーションが発生します。
ホスピタリストは病院の中にいる総合診療医です。臓器〜人間レベルの幅広さを武器に、診断学やmultimorbilityへの対応・急性期から慢性期への橋渡しを担います。
家庭医は診療所〜小病院にいる総合診療医です。より家族〜地域へのケアを重視し、院内外でマクロ方向のアプローチを行える立場です。

総合診療医が在宅医を担うことはあります。フィールドは自宅となり、限局されたリソースの中で幅広いケアを担当します。地域へのアプローチも絡み合ってくることが多いです。
臓器別専門医が在宅医療へシフトチェンジする中で、自然と総合診療医としての目線を身につけていくパターンも多々目撃します。こういった方は総合診療医と呼んで構わないと個人的には思います。

 

では、総合内科はいかがでしょうか。
個人的には総合内科は総合診療と一線を引くべきではないかと考えています。
あくまで「内科」です。幅広く臓器〜組織レベルの診断能力を持ち、複数の臓器疾患のマネジメントができることが武器と考えます。
最初に線引きした総合診療医かどうかの基準は、マクロ方向への思考回路でした。
総合内科専門医のトレーニングでは現時点でマクロ方向への思考を担保するものではないと考えています。
オーバーラップする部分も多く線引きは難しいですが、上記の条件で色分けした時には総合内科と総合診療医は線を引くべきなのかなと思っています。
ただ、臓器レベルを幅広くみる中でマクロへの目線は強く絡んできます。そのため、総合内科の先生にも総合診療医としての思考を身につけておられる方も多数いらっしゃることを付け足しておきます。

以上の説明をざっくりと図にまとめたのが下記です。

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思考回路を身につける、という専門性は目にみえないために認知されにくいです。
総合診療の専門性がまだまだ不透明なのは、臓器別専門医よりわかりにくいことは影響しているでしょう。
しかし、思考回路ほど一朝一夕で身につくものではありません。思考回路とそこに基づいた診療態度こそ適切なトレーニングの中で成熟させなければ身につかないものです。
「見えるんだけど見えないもの」に胸を張れる総合診療医がこれから増えてくることを願って止みません。