YAMAGATAxGP

山形県で総合診療医を目指しています。日々の振り返りをご笑覧ください。

地域医療を定義してから語ろう

Twitter医師不足の地域への派遣・地域医療という言葉がなんだか氾濫しています。
元のソースがはっきりしないので、専門医どうのこうのについては言及しません。
(どうもhttps://mf.jiho.jp/article/215416だけ? 会員じゃないので読めませんでした)


今回書いてみたいのは、「地域医療って言葉の幅を理解してから話そうぜ」という話です。

この断片的なニュースには”医師不足地域”と書かれています。
医師不足の地域と言われると、パッと思いつくのはいわゆる”無医村”のような状況でしょうか。
今まで積み上げてきた高度な専門技術を一度脇に置く島流しのような1年間。そんなことを要求するのか、けしからん!的な論理で盛り上がったんじゃないかなーと勝手に想像しています。

医師不足地域と言われても、結構グラデーションがありそうですよね。
・人口がめちゃ多くて相対的に医者不足(専門診療だけ)
・田舎の地方都市で専門医不足(専門診療+当直が大変)
・へき地で医師不足(総合診療の領域、専門診療はやらない)

もちろん、冒頭の無医村だって立派な医師不足地域です。しかし、それ以外にも医師が不足している状況は数多くあり、”医師不足の地域=へき地”と断定するのは情報が不足しているのかなという印象です。

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そして、”医師不足地域の医療=地域医療”と断定するのもどうかなとも思います。
地域医療って、すごく多義的な言葉です。もう少し正確に言うと、地域という言葉が曖昧な言葉だから地域医療もまた曖昧になる。
地域医療構想(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000094397.pdf)の中で、地域という言葉は都道府県を指します。
東京都内の医療をどう展開して維持していくかも地域医療になるわけです。すなわち、「田舎で展開されている医療」という意味ではなく、「都道府県の視点から、各地域の現状・ニーズに沿って展開される医療」というのが地域医療と解釈することができます。

定時の勤務帯で外来・訪問診療・ちょっとした入院業務をこなし、地域の困りごとになんでも対応することも地域医療です。
一方で、地域の夜間救急ニーズを把握した上で都市部の1次救急を引き受けるクリニックだって、その地域のことを考えた地域医療の担い手です。
地域医療=田舎での診療ではありません。その地域のことを考えて必要な医療を提供することが地域医療だと私は考えています。
つまり、”地域”という言葉をどんな場所に定義するかで様々な色合いを呈するのが地域医療です。同じ言葉を使用していても、私たちのイメージが一致していない可能性があることを押さえておく必要があるわけです。

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一方で、へき地医療はきちんとした定義があります。
「へき地」とは、「交通条件及び自然的、経済的、社会的条件に恵まれない山間地、離島その他の地域のうち医療の確保が困難であって無医地区及び無医地区に準じる地区の要件に該当する地域」とされています。(厚生労働省 へき地医療の現状と課題https://www.soumu.go.jp/main_content/000513101.pdf
この定義に基づけば、へき地医療とは山間の小さな集落や離れ小島で行われる医療のことを指すわけで、ドクターコトーの世界・総合診療医が輝く舞台です。

現在の自分の勤務はここに当たります。山間部の無床診療所でへき地勤務中の身分としては、幅の広い外来診療・人生の最期に関わる訪問診療・公的機関と連携する攻めの予防活動など面白いことがたくさんある毎日です。
へき地医療はもちろん人を選ぶでしょう。しかし、ハマる人にはとことんハマる奥深い仕事であることは是非覚えていただければと思います。

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つらつらと言葉の意味から書き出してみました。

医師不足の地域への派遣、という言葉だけで「うわ田舎かよ」となるわけではない。
地域医療という言葉には幅があり、一言では語り尽くせないことを知っていただきたい。
そして、へき地医療は決してマイナスな医療ではない。自分1人の力で地域住民の健康や幸福に対しレバレッジを効かせられる”やりがいの塊”です。


地域医療を楽しんで従事している1人の医者として、ただマイナスイメージを表す文字にしてしまうのは口惜しいところです。
地域医療・へき地医療の面白さをもっと広げていきたいと改めて思いました。
またブログで紹介していきたいと思いますので、その際はどうぞお付き合いください。