YAMAGATAxGP

山形県で総合診療医を目指しています。日々の振り返りをご笑覧ください。

ドクターコールに対応して思うこと。

今週末は東京に勉強しに来ていました。
目からボロボロ鱗が落ちてくる経験をさせてもらったのですが、こっちはまた後ほどまとめる予定です。
今回はその道中にドクターコールと遭遇した話です。

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東京まで向かう新幹線の中で、私は勉強会の予習に精を出し……切れず、ウトウトしておりました。
そんな時、いつもの録音されたアナウンスと違う声が流れてきました。

「車内で具合の悪い方がいらっしゃいます。お医者様か看護師様はいらっしゃいませんか?」

これは……噂のドクターコールじゃないか!
ドクターコールに対する反応は人それぞれです。
責任感で動く人、裁判になった場合を考え動かない人。すべてはその人次第。
自分は、何も考えずに腰をあげていました。

指定の車両に向かうと、男性が一人倒れていました。
いろいろ話を聞いて診察したところ、飲み過ぎに伴う脱水でふらついた様子。
ひとまず命に別状はなさそうなので安心しました。
駅を降りた後で病院を受診するよう指示してドクターコールは終了でした。

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とりあえず軽症でよかった、というのが率直な感想です。
対応を通して思ったのは、「あくまで善意が基盤である」ということでした。

男性の受診をどうするか、という話になった時に車掌さんへ「近くの病院まで案内とかはできるんでしょうか」と聞いてみました。
車掌の答えは「私達はあくまで構内の介助しかできないので、病院まではご自身で行って頂くしかないんです。車椅子で車内から構内までご案内などはできるんですが……」でした。

車掌の業務は車両を順調に運行させることです。利用者の安全を守ることまでは含まれておりません。
逆に言えば、利用者がどんな体調であっても自己責任なんでしょう。
そういう立場からすれば「病院まで運んでください」まで言われても、その他の業務があるし仕事の範囲外なわけです。

じゃあ医師はどうでしょう。
よく話にあがるのが「応召義務」です。
医師法第19条 診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には正当な理由がなければこれを拒んではならない。”
この応召義務がプライベートで成立するのかどうか、で意見が分かれるようです。

ググった程度の情報しかありませんが、弁護士の意見が書いてあるサイトをみても様々です。
どうもドクターコールで裁判まで至った事例がなく、判例主義である以上はっきり言えないというのが実情なのでしょう。
「善きソマリア人の法」があるアメリカ・カナダでは緊急処置について法的に訴えられない、ということを名言化しています。
日本にも「民法698条」で、悪意・重篤な過失がなければ緊急時の対応で生じた損害を賠償する責任を問わない、とも書いてあり、比較的善きソマリア人の法に近いことを言っているようです。
はっきり大丈夫と言ってないので、100%大丈夫と言えないところが問題なんでしょうね。

あとは、個人の意思次第。
いろんな意見がありますが、個人的にはドクターコールに手を挙げられる医者になりたいと思っています。
今回の対応を通して、いろいろ考えることができて良い経験になりました。
緊急時に対応できる人になろう。

参考にしたサイト)