YAMAGATAxGP

山形県で総合診療医を目指しています。日々の振り返りをご笑覧ください。

診療所3年間の振り返り

この3月をもって、現在の勤務地から異動することになりました。
奨学金の兼ね合いもあるので止むを得ない事情ではあるのですが、この3年間を振り返ると本当に様々なことを教えてもらったなぁと感謝で胸が熱くなります。
そんなわけで3年間で自分が地域から何を教わったのか、書き留めておこうと思います。

 

・自分のやりたい総合診療を実践できた
家庭医療専門医のPGがなぜこんな内容になっているのか、と考えたことがあります。
小児や思春期ケアとかまで必要なのか?とか、地域ヘルスプロモーションとかキツくない?とか。
その答えが、現在の勤務地にありました。
自治体唯一の医療機関で、アクセスは1番いい場所にある。そのため、ともかく何でも来る。子供の対応だって必要だし、役場からの相談やワクチン接種業務などの診察室の外の活動も求められる。
この3年間はまさに「総合診療医」として働き続けた3年間でした。逆に言えば、これまでの地域派遣ではこういった勤務が叶わなかったということでもあります。

これは当院の歴史というか、ずっと昔から「何でも診る・誰でも診る」を続けてきたこと・そして自分の先輩達が脈々とそのスタイルを引き継いでくださったことに答えがあるのではないかなと思います。
立地条件と昔ながらの「かかりつけ」スタイルの継続、そこにたまたま総合診療をやりたい自分が飛び込んだことで非常に楽しい勤務を行うことができた。
僻地派遣をキャリアのマイナスに捉える人もいると思いますが、総合診療医を目指したい自分にとっては実践+研鑽の場として最高の3年間でした。

 

・「地域の住民」になる威力を体感した
家族ぐるみで移住したため、住民として暮らした3年間でもありました。
自宅周辺の方との交流・町内会での歓待といった楽しさだけでなく、雪の多い年には一緒に雪かきの大変さを語ったり水害の時にはお互いに苦労を労ったり……その土地に暮らしているという共通条件だけでも診察室で医師ー患者関係を超えたコンテキストで対話をすることができました。

家庭医療の大家であるマクウィニー先生も「その土地で暮らすこと」ということを近接性としてあげていたように思います(うろ覚え)。
これって、住民としてのコンテキストを持っていることで、地域の見え方や患者さんの見え方により深みが増すからなのではないでしょうか。
肌感覚だけなので的が外れているかもしれませんが、少なくともこの3年間は「地域の住民として何ができるのか?」という目線を持てたように感じています。そして、その目線がどれだけ診療に深みを持たせてくれるのかも体感できました。

 

・地域医療において総合診療・家庭医療を学んでおくことが物凄く有効
この3年間は我流で学んできた総合診療・家庭医療の知識を実践する機会に数多く恵まれました。
「これがヘルスプロモーションなんだな!」とか「そうか、病院の外の地域包括ケアはこんな感じなのか」と、知識ベースでしかわかっていなかったことを実践知として体感することができた、と言い換えてもいいと思います。
この経験からやっぱり思うのは、総合診療・家庭医療のエッセンスを学んでおくことは地域医療を実践する上でものすごく役に立つということです。
地域の現場で誰に教えられるでもなく実践されていることを、知識や学問体系に落とし込むと総合診療や家庭医療の文脈になっていく感じでしょうか。
地域医療を実践したい・地域で活躍したいという人はやっぱり臓器別専門を学ぶのではなく、総合診療・家庭医療を学ぶ方が大事なんじゃないかなと改めて思います。

 

この3年間の地域派遣を総括すれば「学んできたことが花開き、更に1段階深みを教えてくれた」と表現したいです。
この地域に赴任できてよかった。この地域で働けたことを誇りに思います。

Yooc!追いコンから思うこと

ここ数年、大学生と「大学の中で学べないことを学ぼう」というテーマでYooc!というサークル活動を行っています。
先日、このYooc!に6年間参加してくれた卒業生の追いコンがあったんですが、この会を通して思うところがあったので徒然に記録しておこうと思います。

 

〜〜〜
彼女は本当に6年間、月1回のサークル活動にほぼ全参加してくれていました。
特に大会もなければ成し遂げる目標もないサークルなので、その時・その年ごとに内容は様々だったと思います。
そんな6年間参加した日々を振り返って、彼女は最終プレゼンでこんなことを語ってくれました。

 

「自分の考えを言語化して他の人と交流することで、自分の考えの狭さを知ることができたし多くの考えに触れて視野を広げることができた」

「医者としてというよりも、1人の人間としてやりたいことを探していきたい」

 

この言葉を聞いたときに、まるで自分の胸の中から出てきた言葉のように感じました。
そうなんだよ、そういうことを伝えたかったんだよ。

とは言っても、上記をテーマとして取り上げた記憶はありません。
もしかすると様々なテーマで一緒に学びながら、ことある度に自分の言葉の節々から何かを感じてくれていたのでしょうか。
そして、届いた思いが自分の大事していることと共通しているとは!

6年間交流する中で自分の蒔いた種が、彼女に届いて何かの芽を出している。
教育者を自称するのは大変おごがましいですが、自分から若者へ何かバトンをつなげた瞬間を垣間見た気がしました。これほど教育に携わる者として幸せなことはないなーと、ちょっと目頭が熱くなってしまいました。

 

〜〜〜
自分もまだまだ学んでいくべきだしそのモチベーションも失ってはいないのですが、少しずつ次の世代にバトンを渡していく年齢になってきているのを感じています。
それは決してマイナスではなくて、一緒に学び合うことを通じて自分が生きていた証を次世代に残していけるという幸せなのではないかなーと感じた夜でした。

卒業生を送りながら、来月からも次世代の若者と一緒に学び合っていきたいと思います。

読書録:地域医療のブレイクスルー

お世話になってる先生が紹介していた本です。
自治医大の大先輩が書かれた地域医療の本というのなら読むべきだろう!と思い、すぐに購入してみました。

 

後半は筆者の取り組んだ小病院立て直しの系図を詳細に記載していました。ここの部分はちょっと割愛しておきます。
(病院リスタートを考える人にとっては刺激になると思います)

 

個人的にビビッと来たのは前半部分。
地域医療とは何か? 総合診療とは? プライマリケアとは?という言葉の定義から始めているところが大変良かった。
以前のエントリーでも「地域医療って言葉は曖昧だよねー」と書いていたのですが、
https://yamagatageneral.hateblo.jp/entry/2021/02/01/163645
なんとなーく考えていたことをクリアカットに定義として記載されてました。
そうか、やはり同じことを考えている人はいるんだなと思いつつ、先人と同じ道を歩いていることに改めて背筋を正されたような気がしました。

 

その定義から、筆者は地域医療の定義をこう紹介しています。
「地域医療とは、地域包括ケアの中で医療を行うこと」
なるほど!と思いましたね。実体験からくり抜くとまさにこの言葉に尽きます。
シンプルかつ妙に言い当てているこの言葉に感動して、研修医にも「地域医療って地域包括ケアの中で医療を行うことなんだぜ!」と興奮しながら話したくらいです。

しかし、その研修医からはあまり反応がよくなかった。多分、「地域包括ケア」と言われてもぴんとこなかったからじゃないかと思い直しました。
自分は曲がりなりにも地域の中に飛び込んで、無手勝流ながら地域医療を実践してきたと思っています。診察室の外に流れる空気や、家庭・集落で生きるということ、医療ー福祉ー介護の連携がどれだけできるのか?などなど。
これを肌で感じているからこそ先程の定義が腑に落ちたのだとすれば、その肌感覚のわからない研修医がポカーンとするのも納得できます。

そういう意味では、この本だけで初学者が地域医療すごい!となるかはわからないのかなと思いました。逆に言えば、ある程度地域医療に触れた人であれば「そうそう!これこれ!」と膝を打つ内容に溢れていました。
興味のある方はぜひお手に取ってみてくださいね。