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山形県で総合診療医を目指しています。日々の振り返りをご笑覧ください。

緩和ケア病棟の空気

新型コロナウィルス流行の中、多くの医療体制がコロナウィルス対策のために形を変えたり本来の機能を制限するようになりました。

その中の1つが緩和ケア病棟です。

緩和ケアの必要な患者さんが一休みする場所として作られる緩和ケア病棟の多くは、個室だったりパーソナルスペースを確保できるように広かったりしています。また、いつでも面会できるように専用の出入口があったり、静かさを確保するために他の病棟と少し離れて作られたりしています。

何を言いたいかというと、これらは全て「コロナ感染患者を隔離するために最高の環境」ということです。

多くの緩和ケア病棟が、新型コロナウィルス対策としてコロナ感染患者のための病棟に変わっています。

一方で、がん患者は減ったわけではありません。緩和ケアが必要で本来なら緩和ケア病棟の適応がある患者さんに,残念ながら利用してもらえないまま貴重な時間が過ぎていきます。

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私は週1回、緩和ケア医として一般病棟で悩む方や辛さを抱えている方と関わっています。

コロナの前は緩和ケア病棟を回っていたのが、今は一般病棟を上から下まで歩き回るようになりました。

一般病棟のスタッフも丁寧にケアしてくれていますが、緩和ケア病棟とは違う空気感に一抹の寂しさを感じていました。

今日も病棟回診として、1人の患者さんと話してきました。

細くなった指はこれまでの仕事と人生を物語っているようで、そっと手を添えると「暖かくて気持ちいいね」と小さな声で教えてくれました。

自分の行く先や抱えている辛さ、こぼしたい思いも沢山あったと思います。それでも、お互い口には出さずに手を取り合っている沈黙の中で、私は懐かしい空気に浸っている気持ちになりました。

穏やかで周囲の時間から切り取られたような空気。

その中で、患者さんの呼吸と私の呼吸が緩やかに繋がっているような感覚。

新型コロナの中で忘れかけていた、緩和ケア病棟の空気がそこにはありました。

その後は、とりとめのない話や患者さんの介助をしたりして、「また来週ね」と挨拶をしました。

目が合った時、瞳の奥から想いが差し込まれたような錯覚に陥りました。

『来週、また会えるだろうか』

『その時にはどうなっているだろう』

そう語りかけられたような気がします。

それでも「待ってますからね」と返してくれた患者さんに、私は笑顔を返すしかできませんでした。

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新型コロナウィルスの中で多くの人が影響を受け、もがき続けているのは知っているつもりです。

この災害を乗り切ることが何よりも重要であることも知っています。

だけど、だからといって病いで苦しむ人に緩和ケアが提供できないことを嘆いてしまうのは、間違っていないはずです。

災禍の中で、できることは限られています。

それでも、自分のできることくらいはできるだけ尽くしてあげたいと改めて心に刻んだ1日でした。