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山形県で総合診療医を目指しています。日々の振り返りをご笑覧ください。

美容師さんから教えてもらった「目線」

火曜日の夜のことです。
以前の勤務先で懇意にしていた先輩と連絡を取り合っていたら、こんな内容が追伸に書いてありました。
「追伸)美容師の〇〇さんが埼玉に行くから、今週で勤務終了だって。君にもよろしくと言っていたよ」
その一文は胸に喪失感を巻き起こすに十分な威力でした。

3年前くらいまで髪の毛なんかどうでもいいと思っていたので、美容室に行くのは年4-5回程度でした。
(それでも床屋じゃなく美容室に行っていたのは自分なりの矜持だったのでしょうか)
その頃は山形の地元から離れた別地方にいましたので、いったいどこに行っていいものやら毎回途方に暮れていたのを思い出します。
ふとネットで調べて足を向けてみたのが、〇〇さんのいる美容室でした。

彼にセットしてもらった髪型は思ったより好評で、嫁からも「〇〇さんに切ってもらった時が一番かっこいいね」と褒められました。
嫁に褒められ調子に乗ったこともあり、年4回程度だったカットが月1回きちんと整えてもらうようになりました。
その都度、髪の管理やシャンプーの相談など色んなことを教えてもらい、悩みの薄毛が……解決はしませんでしたが進行拡大を食い止められるようになりました。

その〇〇さんがいなくなる。
てっきりこれからもお世話になるものだと思っていたので、まさに寝耳に水です。
山形県内だったら追いかけようかとも思いましたが、埼玉となると流石に追いかけるにはしんどそうです。
これから髪の毛をどこで切ったらいいんだろうなぁ……とその夜は久しぶりに途方に暮れながら床に就きました。

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一夜明けて、これは患者さんが味わっていた喪失感に似ているんじゃないかと思い立ちました。

お世話になっているかかりつけの先生が突然異動になる。患者としては寝耳に水です。
(医者は移動が多いので、もっと衝撃の程度は低いかもしれませんが)
いい先生だったのになぁなんて思いながら、次の先生はどうなんだろうか・これからも同じように対応してくれるんだろうかと心配の泡がふつふつ湧いてきます。
それでも、病院には通うだろうし新しく赴任した医者とまた新しい関係性は作られていくのでしょう。
新しい先生に馴染んできても「やっぱりあの先生はよかったなぁ。あの時はお世話になったなぁ」という記憶はきっと残っていくのだと思います。

プライマリケアの5要素のうち、継続性というものがあります。
人が変わっても時代が変わっても、患者に十分なケアを提供するのがプライマリケアです。
それを享受する側の気持ちは実際に通ったりお世話にならないとわからないものです。
継続性の切れ目で患者さん達が感じる喪失感・この先への不安を、別な形で自分も感じることができたと思います。

これからも異動がつきものの仕事なので、患者さん達にこんな思いをこれからも感じさせてしまうのでしょう。

喪失感は「あなたがいてくれてよかった」の裏返し。
何とかできるとすれば、「次の先生が来ても問題ないようにバトンタッチしていくからね」とこの先の不安をできるだけ緩和してあげることなのかな、と思いました。

〇〇さん、お世話になりました。
最後に大きなことを教えてもらいました。
これから私は新しい美容師さんとまた出会うことになるでしょう。
けど、〇〇さんにお世話になったことは忘れません。
また山形に帰ってきてくれることを心待ちにしています。