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山形県で総合診療医を目指しています。日々の振り返りをご笑覧ください。

「こわい」「がおる」の奥深さ

もうすっかり秋めいてきました。
あたりの田んぼもドンドン刈られており、そろそろ雪囲いも考えないといけなくなりそうです。

そんな稲刈りで忙しい住民の皆様から、よく聞かれる方言があります。
「先生、まずこわくてよ」
「いやー昨日はなんだかこわくて、らくでねがった」
「今日の朝からがおってしまって、わらわら診療所さきたのよ」
この文、読めますか?

こわい・がおるという言葉は医療言語として多用される方言です。
どちらも北海道〜東北〜東日本で使用される方言ですが、がおるは知名度が低いかもしれません。
ERとかで〈主訴…こわい〉とかありますからね。
関西方面から来たばかりで面食らっておる研修医のために解説しておきましょう。

よく言われるのは「こわい」=倦怠感、という表現です。ちょっとググっただけでこれに倣った記事がいくつかヒットします。
しかし、ネイティブ山形人としてはもう少し違う言葉と言いたい。

「こわい」=①本調子ではない ②何かおかしい ③倦怠感

これくらい包括的なワードと認識してます。
倦怠感とはっきり言えないくらいのすっきりしない不調も含んでいることがポイントです。
例えば、
「なんだか昨日からこわくてよ」=「なんだか昨日から調子悪い」→倦怠感
「今日は腰がこわい」=「腰が調子悪い」→腰痛
…と、同じ「こわい」でも別な医療用語に書き換えられることがわかります。
「こわい」についてはパーツだけが「こわい」こともあるので、何がこわいのか聞き取ることがポイントになります。
全身倦怠感はlow yieldな主訴なので追加情報をチェックするのはもちろんですが、「こわい」の時にもより詳しく聴取することを心がけましょう。

(おそらく、関西における「えらい」に近いと思うんですが…いかがでしょうか)

では、「がおる」はいかがでしょう?

例文…「うちのばーさんが昨日からがおってしまって、往診して欲しい」

「こわい」と同様に調子の悪さを表す言葉ですが、より強い意味合いを持ちます。
言葉のイメージ的には、二日酔いで吐きまくってぐったりしてる状態くらいを想像してください。
『ともかく全身状態がめっぽう悪い、人によっては食べられない・動けない』と解釈して頂いてよいと思います。
なので、〈主訴 がおる〉はそれなりに身構えた方がよいワードと捉えられるのではないでしょうか。

fbの投稿だったか忘れましたが、「翻訳できない言葉にはその土地の文化が眠っている」なんてことを聞いたことがあります。
こわい・がおる、というワードにはどんな文化背景が隠れているんでしょうか。
そんな奥深さに想いを馳せながら、今日もじいさまばあさまの「こわい」「がおった」に向き合いたいと思います。