YAMAGATAxGP

山形県で総合診療医を目指しています。日々の振り返りをご笑覧ください。

SSSじゃないの?

私の勤務先が3次病院かつ初期研修でお世話になった病院ということで、救急車当直を担当しております。
先日、そんな当直中に出会った方から学ばせて頂いたので、整理も兼ねてまとめたいと思います。

トイレに行こうとして倒れた高齢者が搬送されました。
車内で既に不整脈を掴まえており、到着後取った心電図でも心房細動らしき所見でした。
徐脈傾向で、時折6-8秒ほどのpauseもみられます。
頻脈にはならないけど、これはsick sinus syndromeではないか!と閃いた私。
一時的ペースメーカー挿入の適応だ!
すぐさま循環器登板にコンサルトしました。

結論から言うと、SSSではなく徐脈性心房細動でした。
プロタノールに反応したので点滴投与で入院管理することになりました。

……あれー?
SSSについて一度振り返る必要がありそうです。

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SSS(sick sinus syndrome, 洞不全症候群)の定義は
『洞房結節の機能不全が原因で、湿疹やめまい・ふらつき・倦怠感などの症状を来す疾患』
…となっています。
診断には臨床所見+心電図の徐脈所見が必要とのことで、一見今回のケースでは当たっている気がしないでもないです。

SSSは大きく分けて3つのタイプに分類されます。
①洞性徐脈 徐脈がずっと続く
②洞停止/洞房ブロック 正常の脈が突然止まり、また再開する。この停止間隔の長さで洞房ブロックか洞停止かに分ける。
③徐脈頻脈症候群 徐脈と頻脈を繰り返す
今回のケースはずっと徐脈気味ですが、脈拍がpauseするところがあるので②か③なのかなー?と思ってSSSと考えました。

この鑑別で何が大事なのかというと、「徐脈以外の部分」になります。
SSSだと徐脈以外の部分は正常ないし頻拍になるわけですが、ここでのRR間隔はおおむね正常になります。
②であれば伝導途中に何かしかのブロックがある病態なので、伝わってしまえば問題ない波形になります。
③なら徐脈のあとは頻脈が来ます。

実際撮影した心電図を見てみると、pauseの後に出てくる脈はRR不正の徐脈でした。
②にも合わないし③にも合わない。
循環器当番の目ではここがポイントになったそうです。つまり、伝導ブロックが起きているのではなく房室からそもそも電気刺激が出ていないからこのような波形が発生する、と。

pauseが起きているから一時的ペースメーカーに飛びつくのではなく、そのほかの原因の鑑別も必要でした。
そもそも全身状態は安定しているのか、Kの異常値はないか、腎不全・肝不全など合併していないか、心不全は起きていないか…etc。
また、徐脈で危険な時にはまず硫酸アトロピンやプロタノール投与で全身状態の安定化を優先するということも教えて頂きました。

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まとめ
・pauseがあっても原因精査は怠らない
・徐脈の出方とその周辺波形で、何の不整脈が起きているかを考える
・SSSのタイプを再確認

こうしてまとめてみると、知識ギャップによるエラーとdiagnostic momentumが起きていた印象です。
勉強になりました。

参考文献:今日の臨床サポート