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山形県で総合診療医を目指しています。日々の振り返りをご笑覧ください。

読書会をやってみた 「ハーモニー/伊藤計劃」

医学生と定期的に勉強会をやっているのですが、趣向を変えてみようと読書会をやってみました。
これが結構面白かったので、ブログでも紹介します。

 

今回のネタは、鬼才 伊藤計劃が遺した小説「ハーモニー」です。
https://www.amazon.co.jp/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%83%BC-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E6%96%87%E5%BA%ABJA-%E4%BC%8A%E8%97%A4-%E8%A8%88%E5%8A%83-ebook/dp/B009DEMA1Q/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%83%BC&qid=1591936614&sr=8-1

 

伊藤計劃は癌のため才能を惜しまれながら逝去された小説家です。デビューしてわずか2年だそうです。
彼の残した小説はたった3本(共著含め4本)ですが、どれも異彩を放っておりゼロ年代SFのベストとして認められています。

その中の1本が、今回紹介する「ハーモニー」です。
アニメ化・DVD収録もされており、知る人ぞ知る名作だと勝手に思っています。

 

シネメデュケーションという教育技法があります。
映画のエモい部分を見せて、受講者に考えさせるような方略です。
それの読書版ということで読書会を企画しました。

本を読む教育技法だからreadimication /リーディミケーションとか名付けちゃおうかな〜なんて妄想してましたが、「これって夏休みの読書感想文と同じだよね」と友人に指摘されて目が覚めました。
是非、皆様も手にとってみてください。
SFなので得意不得意はあるかもしれませんが、医療に身を置く人間なら何か響くものがあるはずです。
感想お待ちしています。

 

 

最後に、自分の感想をちょっとだけ書いておきます。

 

 

===以下 ネタバレを含みます===

ハーモニーはSFですが、決してフィクションと言い切れないのではないかと思っています。
「ヒトは管理社会にいることが幸せなのか?」という問題を突きつけてくる予言書のようです。

 

外来で医者は患者にいろんな話をします。
「高血圧は下げた方がいい」「タバコは健康に悪いからやめた方がいい」「糖尿は合併症になるから血糖値を下げよう」などなど。
この裏には、その患者さんができるだけ自分らしく人生を過ごせるようにしてあげたいという思いがあるはずです。
しかし、受け取る側にはその意図が伝わっているのでしょうか。

 

伊藤計劃は若くして癌を患い、その闘病の中で作品を書き上げたようです。
この年齢と当時の医療背景を考えると、おそらく医者は化学療法をできるだけ検討したのではないでしょうか。
きっと伊藤計劃という人間がもっと長く生きられるように知恵を絞っていたはずです。
けど、その気持ちは彼にどう映ったのでしょうか。

 

勝手ながら自分には伊藤計劃の苦悩がページ越しに伝わってくるような気がしました。
「自分は生きるために管理されているのか、死ぬために管理されているのか」
「この治療の先に何があるのか」
そんな絶望とすがる思いが入り混じりながら、現代社会に投げかけた一石がこの「ハーモニー」と言う作品だと思うのです。

 

あなたに頑張って欲しいから、あなたに自分らしくいて欲しいから、医者はいろんな薬を考えたり提案したりしています。
その大事な思いを患者さんにきちんと伝えることができれば、医学管理は冷たい響きから少しほぐれるような気がしました。